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女同士 -1905-



新進の仕立屋の手によるパールグレイのジャカード織の夜会服に身を包み、エメラルドとダイヤのネックレスをつけた。絹の長手袋をはめて鏡を見る。

ヴェーラ、あなたは今夜はパーティーの主催者として堂々と振る舞うのよ、と自分に言い聞かせる。あの出来事を思い出してはダメ。

「ヴェーラ、準備はできた?」

ノックもそこそこにユリウスが入ってきた。

「すごく素敵だよ。今夜の主役はあなただね。それにそのネックレス。エメラルドがあなたの黒髪と黒い瞳を引き立ているよ。お姫様のようだ。あ、ヴェーラは本物のお姫様だったね」

無邪気に彼女が笑う。男として育ってきた彼女は、ドレスアップした女性に対する賛辞を忘れないようだ。

お姫様、ね。

ユスーポフ家の娘でもなく、おにいさまの妹でなかったら、彼は私をどう思ったのだろうか。

そんな私の思いをよそに、彼女が芝居がかったように、仰々しくおじぎをした。

「姫君、どうか私に一曲あなたと踊る名誉をお与えくださいませんか?」

彼女は細い手を差し出した。私はこのおふざけに乗った。

私より背丈が僅かに低く、男性と比べればずっと華奢な肩と手で軽やかに私をリードする。

「まあ、ユリウス、あなたってダンスが上手なのね。ひょっとしたら、おにいさまより上手かもしれないわ」

「お褒めにあずかり光栄です。姫君」

彼女が片目を瞑ってみせる。

「あなたの心を虜にできたかな?」

「ユリウス、あなたが男性のように振る舞ってきたのは知っているけれども、実際に女性を口説いたりもしたの?」

「あなたは、女性を口説いたことがあるの?」

私たちは顔を見合わせて笑った。

「あなたのように美しくて、優しくて、思慮深い女性を口説かないなんて」

ユリウスったら、自分が女だという自覚があるのかしら?

けれども、彼女は女性として賛辞の言葉をもらったことがないのだと思うに至り、何だか不憫に思えた。

愛の言葉を囁かれたとしても、それは…。

「世の中には、まともな男がいないってことさ」

私の瞳を見つめて言う。私は彼女の心の声を考えた。あなたが部屋に閉じこもっていたのは、それが理由なの?

連れ去られている間に、誰かに乱暴されたり、ひどい目にあわされたりしたのかと、兄と心配していたのだけれども。何があったの?

どうやって答えを誘導すればいいのか、わからなかったが、どういうわけか言葉が出てきた。

「特に革命家と称する人たち?」

「許せないよ。あなたを…」

と言いかけて口をつぐんだ。

その怒りは、誰に対して?

それにしても彼女は意外にも正義感が強い。

「ごめん。嫌なことを思い出させたね。さあ、続きを」

女同士で踊るなんて、子どものとき以来だわ。

孤独な女同士が、くるくると円を描きながら踊る。私たちはどこに行きつくのだろう?

「ヴェーラ、準備はできたか。叔母上がもうすぐ到着される」

兄が迎えに来た。リュドミールが兄のあとについてきている。

「さあ、リュドミールはユリウスと一緒にお留守番よ。ふふ、留守にするわけもないのにお留守番なんてへんね」

今夜は、一年を通じて兄と共に闘った士官たちのために、毎年恒例の私的な慰労パーティーを開催する。招かれたのは士官たちだが、功績のあった者も招待されている。

本来、おもてなしをするのは義姉の役目のはずだが、義姉は準備の間、ずっと帰ってこなかった。

叔母は、このユスーポフ家で生まれ育った母の妹で、母代りに何かと世話をやいてくださる。今回も我が家の様子を察して、あれこれと段取りを整えてくださった。

何も考えられない状態だった私に配慮してか、ユリウスが手伝いを申し出てくれた。

「こんな大規模なパーティーの準備をした経験もないけれども、何でもやるから手伝わせて」

あなたの恋人を捕まえた人たちのためのパーティーよ。

「何のためのパーティーか知っているの?」

「あなたのために何か役に立ちたいんだ」

この時、私は彼女の心中を推し測る余裕はなかった。

社交的な叔母はとても頼もしい相談相手だ。叔母がおおまかな指示を出し、執事始め上級使用人たちが打合せをする。献立作りから、会場の飾り付け、テーブルコーディネートの方針、楽団、出し物、引き出物の手配など、短期間でおおがかりな準備をしなければいけないとあって、屋敷中が上を下への大騒ぎになった。叔母が直接上級使用人に指示を出すこともあったが、ほとんど私を通じてやり取りをした。ユリウスの存在は叔母にも知られていない。

私はほぼ取り次ぎ役に過ぎなかったが、それでも彼のことを考える時間が減ったこと、叔母の温かい人柄に触れて慰められていった。

ユリウス、あなたも忙しくしたかったの?

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